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NO96  シュリル・クライマン/鎌田大資・寺岡伸悟訳 『感情とフィールドワーク』 
世界思想社 2005年
 
キーワード:感情  感情管理 インタビュー

高齢者ケアの領域では、ケアワークを感情労働としてとらえて、その特質を論じるという労働論や管理論が目に付く。看護の領域では、感情管理の技法まで踏み込んでいるものもあるようだ。だが、あってよさそうであるのに、ケアワークの領域に感情管理の技法まで踏み込んで論じたものは見かけない。社会学の研究者は、ケア労働には関心があっても、技法にまでは関心がないのだろう。

ソーシャルワークも感情労働そのものだ。バイステックの7原則のうちの「統御された情緒的関与」を出すまでもなく。しかし、感情労働として、また、その感情管理の技法を論じたものは、やはり、ないように思う。少なくとも、テキストでは。

生活保護ケースワーカーの「川柳事件」を扱った副田義也の「ケースワーカーの生態」(副田義也『福祉社会学宣言』岩波)は、川柳の内容分析を行って、ケースワーカーの仕事が何であるのか、見事に明らかにしている論文である。そのなかで、ケースワーカーの仕事の一部が感情労働であることを指摘している。

さて、本書は、質的調査を通してエスノグラフィを作成する社会学者が、調査者にとって質的調査は感情労働の側面をもつ、と指摘したものである。

調査者は調査における感情規則、たとえば、調査協力者を思いやる気持ちをもたなければならない、感情移入が必要である、ラポールを打ち立てるために相手を受け入れなければならない、相手に背を向ける気持ちをもってはいけない、、、、(規則というより思い込みと言ってよい)によって、ときに自分の否定的な感情に気付かないふりをしたり、むりやり抑えたり、別の感情に変えようとする(感情管理)。

だが、それは情報収集や分析に妨げになる。調査協力者や調査場所に対する自分の気持ちに気づき、その感じ方をもデータとして/手がかりとして使うこと。

ラポールができることは調査者にとっても気分がいいし、自分の有能さを確認することができる。しかし、そのことで失うこともある。ラポールができていることには、「社会学的理由」があるのだから、それを突き止めることが分析に役立つ。

クライマンはこのように指摘するとともに、わりきれない気分というもの、あるいは、感情の揺れ、は常にある。それを無視すべきではないとも言っている。

こうしたことは、面接をするソーシャルワーカーの仕事にもあてはまる。「困難事例」と実践者たちが呼ぶ事例がますます増えてくる現状にあっては、ソーシャルワーカーの感情労働、感情管理について考えることを急いだほうがよいのではないか。

ソーシャルワーカーの感情労働を指摘した論文は、上記したように社会学者のものである。社会福祉の研究者の間でソーシャルワーカーの感情労働、感情管理の研究がほとんど見られなかったのはなぜだろう?行政機関のソーシャルワーカーを初めとして、日本のソーシャルワーカーはニーズ確認とサービス結合が仕事の中心で、ラポール形成や面接技術、「統制された情緒的関与」は、ソーシャルワーカーたちにとって「むずかしい」大きな問題ではない、という思い込みがあったからだろうか。


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