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福祉関連の本の紹介と、ちょっとした福祉にかんする話題を提供するコーナーです

No.86 藤川麗 『臨床心理のコラボレーション:統合的サービス構成の方法』 東京大学出版会2007年

キーワード:学生相談室、協働、コラボレーション、臨床心理サービス

大学の学生相談室というものは、臨床心理士や精神科医(非常勤?)がいて、学生のメンタルな問題についてカウンセリングする場だろう、と認識していた。藤川さんによると、いまは、こうしたクリニック・モデルではなく、統合的モデルが試みられているとのこと。

これは、臨床カウンセリングをおこなう心理カウンセラーと、学習相談を中心におこなう学習相談員(研究/教育者の卵)のコラボレーション(協働)による援助、というモデルである。

本書は、その統合モデルの学生相談システムづくりの過程、異職種間のコラボレーションの実態、運営委員会や大学システムと学生相談室とのコラボレーション、統合モデルにおけるコラボレーションの利点と課題、などをトライアンギュレーションの方法により多面的に説得的に明らかにしている。

得られた知見は、藤川さんが言うように、ソーシャルワークのような他領域にも参考になるものが少なくない。

本書は、自分自身の職場であった学生相談室を調査対象として研究した藤川さんの博士論文である。テーマ設定の説明から始まって、先行研究のレビュー、研究方法についての説明、調査方法、データの的確な分析、結果からのモデル生成、先行研究と照らしてのモデル生成の意義と課題の言及、実践者がおこなった研究についてのリフレクションなど、実践に関する研究と論文作成のお手本だ。

質的研究に取り組むソーシャルワークの研究者、また、自分の職場や実践を整理し分析してみたい、と考えている実践家にとって参考になる。

著者自身も触れているが、実践家である著者による自分たちの実践に関する調査研究のため、情報収集に偏りがないか、異職種間のコラボレーションの活動実態分析がやや表面的ではないか、という疑念は多少ある。しかし、当事者だからこそ、ここまで実践とシステムの全体を総合的にとらえることができたと思われ、その点を大いに評価したい。

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番外No8 
ジャン=ドミニック・ボービー/河野万里子訳  『潜水服は蝶の夢を見る』 
講談社 1988年

映画にもなり、2007年カンヌ映画祭監督賞を受賞した作品。ある日突然、ロックトイン症候群に陥った、雑誌ELLE編集長のボービーの手記である。彼は、唯一残された左目の瞬きだけで本書を綴った。

ほとんどすべての身体機能を奪われた不条理にもかかわらず、憤怒と絶望の池から浮上してくるこの力は、周囲の人々への関心・共感と静かな怒り・悲しみをもち続けるこの精神の強さは、一体どうして可能なのだろう?

置かれた状況を恨み、周囲に当り散らすこともできない不自由さを呪うではなく、思い出や想像の世界を飛翔しようとする精神の自由さは?

平凡な日常を知らせる友人の手紙には、「こうした人生の一断片、幸福の息吹にこそ、何より僕は心を動かされる」と言い、「すべての手紙を宝物のように大切にしている」と、友の幸せを自分の生きる力にしている。不幸な立場を悔やみ、他人を羨む、妬む、という凡人の世界を突き抜けてしまったからだろうか?

でも、家族に対する深い愛情と哀しみは率直で、著者の「胸がしめつけられる」想いが伝わってくる。