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福祉関連の本の紹介と、ちょっとした福祉にかんする話題を提供するコーナーです

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No72 伊藤善典 『ブレア政権の医療福祉改革――市場機能の活用と社会的排除への取り組み――』
ミネルバ書房 2006年

キーワード:イギリスの医療福祉改革、社会的排除の取り組み、ダイレクトペイメント、シュアスタート


本書は、イギリスのブレア政権の医療福祉改革の動向や成果について、わかりやすく解説したものである。医療政策、高齢者福祉政策、児童家庭政策、医療福祉サービスの提供体制、ボランタリーセクターの動向、医療福祉サービスの労働力、などについて2005年までの新しい情報が盛り込まれている。

ブレア政権は、保守党政権によって導入された市場主義を継承しているものの、社会的排除への取り組みに積極的であり、貧困児童、母子家庭、エスニックマイノリテイなどへの支援を最優先課題としている。

高齢者福祉政策は、保守党政権によるコミュニティケア改革以降、大きな変化はない。児童家庭政策では、教育改革が重視されている。保守党政権下では重視されていなかった保育支援については強化されている。児童虐待防止にも力点が置かれている。だが、日本のような少子化対策という発想はない。個人の意思を尊重する社会であり、労働力不足には移民で対応するという方針だからである。

イギリスでは、子どもの養育は家族の責任という考えが根強いため、保育政策は不十分で、親支払う保育料も他の先進国に比べ相当高い。ブレア政権は一人親など社会的に弱い立場に置かれている家庭を支援し、社会的排除を緩和していくことが児童虐待の予防にもなるという考えから、保育関連施策を統括するシュアスタートプログラムを創設した。

これは、以下の内容を含む。
①3,4歳児に対する無料の幼児教育
②良質な保育サービスの拡大(保育サービス定員の増加、就労タックスクレジットを通じた保育料支援、保育情報を結びつけた雇用支援等)
③地域プログラムの実施(シュアスタート地域プログラム、アーリー・エクセレンス・センター、児童センターなど)

③は、特に恵まれない地域において実施される。児童センターは、ア) 保育・教育サービスだけでなく、イ) 家庭支援(地域内の生後2ヶ月以内の児童を家庭訪問、支援が必要な親の把握、育児情報などの提供、育児への父親参加の奨励)、ウ) 母子保健(妊産婦指導、うつ状態への支援、禁煙指導など)、エ) 雇用支援(ジョッブセンタープラスと協力して雇用情報の提供など)といったサービスを提供する。

これらは児童の健全育成のためであると同時に、恵まれない地域の家庭を多角的に支援することで、家庭も地域も社会的排除(=貧困)の連鎖から脱することができるようにするためである。

こうしたセンターは学校の敷地や隣接した場所に整備されてきているが、公立学校自体もコミュニティ資源として、3歳未満時の保育、保健、家庭支援、生涯学習などのサービスを提供する拡大学校(Extended School)に転換すること(自治体で少なくとも1つ)が求められている。

日本は恵まれない地域とそうでない地域とが厳然と分かれているわけではなく、事情はずいぶん異なる。だが、保育とともに子育て相談や、家庭支援のサービス、さらには父親育児参加促進プログラム、女性の就労情報提供など、多様なサービスを学校を基盤にしたセンターで提供するという、この試みは一考してもよいのではないか。

本書は、2003年のグリーンペーバー『Every Child Matter(児童にかんするすべてのこと)』についても触れている。



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No71  安冨 歩 『複雑さを生きる ――やわらかな制御――』 岩波書店 2006年

キーワード:複雑系、コミュニケーション、ハラスメント


一見、福祉とは関係なさそうなタイトルである。でも、個人、家族、地域など、複雑な「問題」状況を扱うソーシャルワークを再考する際のヒントが得られるかもしれない。

なにしろ、「はじめに」で、本書の目的は、複雑系科学に関する知識を踏まえたうえで、「複雑で多様な世界とかかわるための具体的方策の提案」をすること、「現代の諸問題に対処するための科学的思考法」を提供すること、と書いてあり、かつ、

「本書の議論から導出される生活上の教訓をまとめ」として、ソーシャルワークが寄って立つべき人間観が、次のように書かれているのだから。

われわれ人間にひとりひとりの心身には、信じがたいくらいに高い計算能力がそなわっており、その力を活用しなければ、複雑な世界を生きることはできない。その創造的な力の作動を恐れ、外的な規範にとらわれ、直接的な目標達成のためにがんばることは、事態を悪化させるだけである。ものごとに取り組む場合には、その置かれた状況を視野にいれ、学習能力を活性化し、間接的で動的な働きかけを行わねばならない。そのために必要な暗黙の力があなたには必ずそなわっている。


複雑系科学の知識を理解できたかどうかは心もとないが、2章「関係のダイナミクス」、3章「やわらかな制御」5章「やわらかな市場」では、若干のヒントを得ることができたように思う。

2章「関係のダイナミクス」では、コミュニケーション過程で、相手が自分と同じ世界をなんらかの形で共有しているはずだという寛容にもとづく思い込みは、外的規範の基礎であるとともに、「ハラスメント」と呼ぶような支配・被支配関係を生み出す危険性を常にはらんでいる、と指摘する。

著者による、コミュニケーションがハラスメントとなる機構の記述は、DVの描写そのもの、である。著者に従えば、コミュニケーションはハラスメントの契機を常にもっていることを認識したうえで、利用者の周囲とのコミュニケーションの状況を理解すること、ソーシャルワーカーの利用者とのコミュニケーションがハラスメントに陥らないよう、また、利用者からハラスメントを受けないよう、コミュニケーションを相互の学習過程;学びあいの過程とすることが重要なのだ。

5章「やわらかな市場」では、市場を価格と需要・供給で構成される「マーケット」と考えるのは不適切だと断言する。市上は、人と人が関係構築と情報収集にいそしみ、やりとりが繰り広げられる「バザール」に近く、その傾向はインターネット化とボーダレス化によって拡大している。企業の目的は、金儲けではなく、顧客とのコミュニケーションを活性化させること、これこそが世界経済におけるサバイバルの方法なのである。

同じように、個人主義化による共同体や家族の「紐帯」の弱化、崩壊が問題なのではなく、人々が相互に学習過程を開いた形でコミュニケーションできるかどうか、である。ハラスメントを押さえ込む形での関係づくり、それを地域のなかで、家族のなかでどう実践できるか、制度の補強ではなく、コミュニティワーク、ファミリイソーシャルワークの方法・技術の問題だ。

No70 田邉泰美  『イギリスの児童虐待防止とソーシャルワーク』  明石書店、 2006年

キーワード: 児童虐待、 児童虐待防止ソーシャルワーク、 イギリスのソーシャルワーク


イギリスの児童虐待防止制度の歴史と現状における課題については多数の文献がある。だが、本書は1889年の全国児童虐待防止協会の成立から始まって、ブレア政権のクオリティ・プロテクツ(インクルージョンを目指した子ども期総合支援対策)まで、被虐待児死亡事件や社会政策の変化による本制度の変遷を、実に詳細に説明している。

また、制度や施策の変化が、児童虐待防止にかかわるソーシャルワークをどのように変え、ソーシャルワーカーにどのような影響を与えていったかについて論じている。

児童虐待防止には、Family Support(著者はこれを子育て支援と訳している)により、親が子どもを虐待をしないように支援していくという予防ソーシャルワークと、虐待のハイリスク家族を中心に積極的介入を行っていくという虐待防止ソーシャルワークの2つが必要である。

この点が繰り返し指摘されながら、地方自治体の財政事情は、Family Supportや予防ソーシャルワークの展開を許さず、限定的で対処療法的になりがちな虐待防止策と虐待防止ソーシャルワークが中心になってしまうという現実。その現実のなかで、子どもたちの利益のために、ソーシャルワーカーの専門性を向上させる地道な努力が行われている。

イギリスのソーシャルワークのターニングポイントは、シーボーム改革によるジェネリックなソーシャルワーク(家族全体を視野に入れ、どのような問題にも一人のワーカーが中心となって対応する)の誕生と、NHSとコミュニティケア法による「サービスの購入者と提供者の分離」およびケアマネジメントの導入である。

この2つは、児童虐待防止ソーシャルワークについても大きな影響を与えている。田邉さんはその点、特に後者の点についてていねいに論じている。イギリスの保健省はソーシャルケアの育成と質の向上に力を注いでおり、ソーシャルワークは、児童虐待防止と精神保健分野にしか存在しなくなる、と田邉さんは予告する。

わが国では、1990年代以降、ようやく広くソーシャルワークが展開できる場と機会が誕生した。これから発展して欲しいと思っている日本のソーシャルワークも同じ運営なのか、それとも、社会に不可欠な機能、サービスとして、児童虐待防止とメンタルヘルスの分野とともに、他の分野でも発展していくのか。

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