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福祉関連の本の紹介と、ちょっとした福祉にかんする話題を提供するコーナーです

No59  デイヴィッド・チール 野々山久也監訳 『家族ライフスタイルの社会学』
ミネルヴァ書房、2006年

キーワード:家族ライフスタイル、家族する、母親する

現代の家族は、多様な形態を取っている。そこで、①だれとだれが家族成員か、②家族はどのようなことをおこなっているか、③家族はその他の集団とどのようにかかわりあっているか、の問いを立てる。

この問いに、家族ライフスタイルにおける相違を比較検討することによって答えることが、「家族ライフスタイルの社会学」である。本書は、イギリスの家族社会学のテキストとのこと。

なるほど、友愛家族についても、異性愛にもとづく友愛家族と、同性愛にもとづく友愛家族、といったように、「多様性」を論じている。友愛家族と親密な関係における暴力についても触れていて、DVは家父長制イデオロギーの文脈で生じるが、それは友愛家族の一定の特徴によっても助長されると指摘している。

つまり、親密な二人のロマンテイックな融合、 二人が一つに融合することというあるべき姿は、この関係維持のためには、親密な二人のあいだの望まない行為を耐え忍び、暴力を辛抱することが大切という苦痛の挿話として働く、というわけ。

しかし、これまでの日本で女性が暴力に耐え忍ぶのは、このロマンテックな融合ゆえよりも、世間体や経済力のなさゆえであったと思われる。

子どもの世話については、「徹底的に母親する」という思想を紹介している。これは、子どもたちをたんに成長させるだけでなく、その可能性を実現できるよう、子どもの身体的、社会的、知的な発達を自分たちがはぐくむべきであるという母親たちの確信のことである。

つまり、子どもと子どもの置かれている環境との関係のすべての側面をうまく管理するように、自分の時間とエネルギーのほとんどを手中させているような、母親による自己犠牲的なコミットメントのことを指す。

「徹底的に母親する」ことは、費用が高くつくので、アメリカでは、母親が労働者、扶養者であるべき、という考えと平行してあらわれている。他方、日本は、まだ、女性たちの経済的な開放へという大衆的な要求によって大規模に修正されてしまうまでには至っていない。結果として、この思想は、若い女性たちに、結婚や子どもをもつことへの抵抗感を作り出すという意図しない効果をもたらしている。というのがチールさんの理解である。

この現象については、すでにいろいろな人が指摘していたと思うが、これを「徹底して母親する」思想、と呼ぶというのは耳新しい(シャロン・ヘイズさんの用語とのこと)。
社会学者というのは造語がうまい人たちだ。ただし、この「思想」は、ジェンダー役割強化と、子どもへのソフトな「虐待」の促進に加担するおそれをもつ。その指摘がないのはなぜ?

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No58  近藤克則 『「医療費抑制の時代」を超えてーーイギリスの医療・福祉改革――』 医学書院 2004年
 
 キーワード:ソーシャルケア、政策評価、ケアマネジメント

サブタイトルにあるように、イギリスの医療政策やブレアのNHS改革について記述し、日本へのインプリケーションを示した本である。第3部の1章では、「イギリス・ブレア政権の高齢者介護・福祉政策」として、ニュー・パブリック・マネジメント(NPM)を紹介している。

NPMは、①サービス基準や数値目標の明示、②サービス提供の民営化・効率化、③政策評価の重視、を特徴とする。①は、サービスの質向上のために、どのようなサービスの質が高いかをスタンダードで示すとともに、到達目標を数値で表す、というものである。

③は、たとえば、50の指標から成る業績評価枠組(PAF: Performance Assessment Framework)を指定し、地方自治体の業績を総合的に評価する指標として活用することを求める。

また、ソーシャルケア(福祉サービス)の向上のために、ソーシャルケアに関する研究の知見を集積し、それにもとづいた実践ガイドや電子図書館を通じて普及を図るSCIE(Social Care Institute for Excellence)が2001年に創設されたとのことである。このサイトからソーシャルケア研究のデータベース(CareData)が利用できる。

近藤氏が指摘するように、日本は、介護保険によってサービス供給システムやサービス評価システムはかなり整ってきたが、PAFやSCIFといった取り組みは不十分だ。今後、このような政策評価の手法やデータベース化は急ピッチで行われるだろう。

こうした傾向と平行して、近年、日本のソーシャルワークにおいても、EBP(Evidence-Based Practice)が重視されつつある。EBPで行える範囲は、ソーシャルワークについては限定的だと思うけれども、政策評価とともに、実践の評価研究も必要だ。

2章「イギリスのケアマネジメント」では、日本の介護保険下のケアマネジメントと異なり、イギリスのそれが自治体によって実にバラバラである点を紹介している。チャリスたちの言う集中的なケアマネジメントが必要と言っているが、日本でも介護保険の前は、この集中的ケアマネジメント、つまり、複合的ニーズをもつ人々、長期にわたり複数のサービスを必要とする重度の要介護高齢者をターゲット化して、サービスを統合的に供給することがケアマネジメントである、という認識があった。

それが介護保険を実現するために、要介護高齢者すべてを対象とするものに政治的に広げられたのだ。日本の介護保険に似た制度を州ごとに導入するか否か、プロジェクトを実施して検討したオーストラリアでは(プロジェクトの結果、その制度を導入しない州が多かった)、ケアマネジメントは高齢者の場合も精神障がい者の場合も、ターゲテイングしている。

2006年度からの介護保険の改正(?)は、遅まきのターゲテイングの開始である。ケアサービスとケアマネジメントサービスを利用してきた大多数の軽度の要介護者にとっては、つらいところだ。セルフケアプラン(高齢者自身によるケアマネジメント)と、地域でのサービス資源づくりを、比較的元気なうちにみなで始めなければ。